申立人 X
同手続代理人弁護士 北里敏明
相手方 Y
同手続代理人弁護士 辻上友男
未成年者A
未成年者B
未成年者C

主文
1 未成年者らの監護者を相手方と定める。
2 平成29年(家)第39号ないし同第41号事件の申立てをいずれも却下する。
3 手続費用は各自の負担とする。

理由
第1 申立ての趣旨
1 未成年者A,未成年者B及び未成年者Cの監護者を申立人と定める。
(第36号ないし第38号)
2 相手方は,申立人に対し,未成年者C,未成年者B及び未成年者Cを引き渡せ。(第39号ないし第41号)

第2 事案の概要
本件は,別居中の夫婦間において,相手方(母)が監護養育している未成年者らについて,申立人(父)が相手方に対し,未成年者らの監護者を申立人と定め,未成年者らを申立人に引き渡すことを求めた事案である(以下,併せて「本件事件」という。)。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実
本件記録によれば,次の事実が認められる。
(1) 当事者
ア 申立人と相手方は,平成22年**月**日に婚姻し,熊本市内で同居生活を開始した。
イ 申立人及び相手方には,同年**月**日,未成年者Aが,平成24年**月**日,未成年者Bが,平成26年**月**日,未成年者Cが,それぞれ出生した。
(2) 同居中の未成年者らの監護状況等
ア 婚姻後,相手方は,専業主婦として,未成年者らの監護に当たっており,平成27年4月からパートに出るようになった後も,食事の準備,掃除,未成年者らの着替え,保育園の送迎,急病時の対応,保育園との連絡,未成年者らの寝かし付け,予防接種や検診,病院の受診等日常的な監護は相手方が主に行っていた。一方,申立人は,掃除や家事の補助,未成年者らの入浴や着替え,食事の介助などについて,補助的な監護を行っていた。
イ 相手方は,平成27年4月にパートに出るようになってから,時間に余裕がなくなり,ストレスから言葉遣いが乱暴になり,また,未成年者らに対し,強い口調で叱ったり,時には叩いたり,暗いところに閉じ込めたりするなど,適切とはいい難いしつけの仕方をするようになった。
 相手方は,平成29年6月頃,未成年者Aと喧嘩した際,未成年者Aから「出て行け」と言われ,未成年者Aを独りで自宅に残したまま,数時間,家を出たこともあった。
ウ 未成年者Aは,平成29年4月に小学校に入学後,相手方に対する言葉遣いや反発がひどくなり,相手方と喧嘩した際,「ママ死ね」と言ったり,包丁を持ち出そうとしたりしたことが複数回あった。同年10月には,未成年者Aが相手方と喧嘩し,実際に台所から包丁を持ち出したこともあった。相手方は,未成年者Aとの関係に悩み,相談機関に対し,未成年者Aへの監護方針について相談していた。
(3) 本件に至る経緯
ア 申立人は,平成28年2月,激務のストレスから仕事を辞めた。相手方は,申立人に対し,急に仕事を辞めてきたり,その後も就職先を探している様子が見えなかったりしたことから,家族に対する責任感がないと感じ,申立人に対する不信感が芽生え,以後,申立人と相手方は,不仲となっていった。
イ 申立人と相手方は,平成29年6月23日,喧嘩をし,その際,相手方は,申立人を外に締め出すなどした。相手方は,上記喧嘩の後,離婚した方がよいと考えるようになり,相談機関に離婚の相談をするようになった。
ウ 相手方は,平成29年10月27日,未成年者らを連れて熊本県**市内にアパート「以下「相手方宅」という。」を借り,申立人と別居した。
エ 申立人は,平成29年11月22日,本件事件を申し立てるとともに,未成年者らの監護者を申立人と仮に定め,未成年者らを申立人に仮に引き渡すことを求める保全事件を申し立てた。
(4) 別居後の生活状況等
ア 相手方は,過去に病歴はなく,心身ともに健康である。相手方は,別居後,平成29年12月18日から就労を開始した。相手方は,朝の支度が少し忙しくなったものの,未成年者Aが前向きに登校してくれるようになったため,以前と比較してストレスを感じることは少ない。また,相手方は,未成年者らを早く寝かせたりするなどの工夫をしたことにより,同居中の頃のように余裕がなくなるということはなくなった。
イ 相手方宅は,間取りが2DKであり,小学校までは徒歩10分程度,保育園までは車で5分程度の距離である。家庭裁判所調査官が訪問した際には,居間も,その隣の和室も,おもちゃや衣類などが場所を決めて収納されており,整理整頓され,清潔な状態であった。
ウ 相手方の父母は,相手方宅から車で15分程度の場所に居住しており,未成年者らの監護補助を約束している。相手方及び未成年者らは,週末は,相手方父母宅で過ごすことが多く,平日も,相手方が対応できないときには,相手方父母のどちらかが,相手方宅に赴き,未成年者らの監護をしている。
エ 未成年者Aは,別居後も,相手方に怒られた際には,相手方に対し,「死ね」などと言うことはあるものの,以前に比べて落ち着いている。相手方は,別居後,相談機関に相談し,未成年者Aに定期的に学校カウンセラーとの面談を受けさせたり,自らの監護態度を反省し,叱り方を工夫したりしている。
オ 相手方は,別居後,未成年者らを監護し,衣食住に不足なく,規則正しく健康的な生活をさせることができている。未成年者らは,いずれも新たな小学校や保育園に適応できている。
カ 未成年者B及び未成年者Bは,年齢的にまだ幼いため,目先の楽しみを優先させる余りに相手方の指導を素直に聞かないことがあることが認められる。また,未成年者Aも,年齢相当に相手方に甘えたい気持ちが強いが,相手方が未成年者B及び未成年者Cへの対応に追われることが多いことから,素直に甘えることができず,その反動から相手方を試すような行動を取ることがあることが認められる。このように,相手方が,未成年者らの対応に苦慮する場面は見受けられるが,このような状況は,年齢の近い幼い3人の未成年者らを養育する中ではやむを得ないものであり,そんな中でも,相手方は,別居後,未成年者らに気を配りながら対応できており,未成年者らもそれぞれ,相手方を頼ったり,接触を求めて甘えたりすることができている状況である。
(5) 申立人の状況,監護方針等
ア 申立人は,平成28年11月9日,転落事故により負傷したが,現在,仕事復帰を果たしており,心身ともに良好である。
イ 申立人は,平成29年3月から現在の職場で就労を開始しており,これまでの平均給与額は月額約**万円,平成29年10月の給与額は**万円であった。また,月額給与のほか,3か月に1回の一時金が**万円ないし**万円支払われることとなっている。申立人の現在の勤務形態は,早番は午前7時から午後4時,遅番は午後3時半から午前零時であり,1週間ごとに早番と遅番が交代する。今後は,未成年者らの世話ができるように,毎週午前8時から午後5時までの日勤にしてもらうことで,勤務先と合意ができている。
ウ 申立人宅は,間取りは1LDKであり,保育園までは徒歩1分,小学校までは徒歩30分の距離にある。
エ 申立人は,自らが監護権者となった場合,未成年者らのために,日勤に切り替え,未成年者らと過ごす時間を中心に生活する方針である。
オ 申立人の母が,監護補助者として,申立人及び未成年者らと同居し,家事,掃除,申立人不在の間の未成年者らの見守りを行う意向を示している。
(6) 面会交流の状況
申立人は,平成30年2月11日,未成年者らと面会交流を行った。
申立人は,現在,熊本家庭裁判所に面会交流の調停を申し立てており,相手方も,申立人と未成年者らとの面会交流を拒否する意向はないため,今後,申立人と未成年者らの面会交流は実施されていく予定である。

2 検討
申立人と相手方は夫婦であるが別居中であり,同居をすることは困難な状況にあるといえるから,民法766条,家事事件手続法39条別表第2第3項を類推適用して,未成年者の監護に関し,必要な事項を定めておく必要がある。
そして,子の監護に関する処分は,子の福祉に直接関係し,裁判所による後見的関与の必要性が高いものであるから,監護者の指定申立てを受けた裁判所としては,申立人の申立てを認めるか否かの判断にとどまらず,適切な監護者を定めることができるものと解される。
(1) 監護者の指定について
前記認定事実によれば,申立人も補助的な関与はしていたものの,相手方が未成年者らを主に監護していたと認められる。
確かに,相手方は,申立人と同居当時は,仕事や未成年者B及び未成年者Cへの対応に追われる余り,必ずしも適切とはいい難いしつけをしたり,自分への愛情を試すような行動を取る未成年者Aと良好な関係とはいえなかったりしたところはあったといえる。しかしながら,申立人と別居後は,相談機関による相談を経て,未成年者Aに定期的に学校カウンセラーとの面談を受けさせたり,自らの監護態度を反省し,叱り方を工夫したりするなど,監護方法の改善を図っている。未成年者らと相手方の間には心理的なつながりが十分に形成されており,相手方の現状の未成年者らの監護状況に不適切なところはなく,未成年者らは,新しい環境に慣れ,心身ともに安定した生活を送っていることが認められる。
以上のとおり,別居に至るまでの間,未成年者らの監護を相手方が主として行っていたこと,未成年者らと相手方との間に十分な心理的結びつきが存在すること,未成年者らが現在相手方のもとで安定した生活を送っていること,申立人と未成年者らとの定期的な面会交流が期待できること,みだりに未成年者らの生活環境を変更することは,未成年者らの心理的安定を損なうものであること,などを考慮すると,現段階では相手方を未成年者らの監護者と指定するのが相当である。
(2) 引渡しについて
前記(1)のとおり,未成年者らの監護者として相手方を指定するのか相当であるから,申立人の未成年者らの引渡しを求める申立ては理由がないというべきである。

3 結論
よって,主文のとおり審判する。

平成30年3月30日 熊本家庭裁判所山鹿支部
裁判官 敷間薫