面会交流の不履行に対して,損害賠償請求をしましたが,先に間接強制の決定があったため,その間接強制と同等額でしか損害賠償請求を認めなかった裁判例です。
原告 X
同訴訟代理人弁護士 久保有希子
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 福崎聖子
主文
1 本件訴えのうち平成29年2月16日以降に生じた損害の賠償請求(ただし、同日以降2か月を経過するごとに4万円の金員の限度)に係る部分を却下する。
2 被告は、原告に対し、17万6000円及びうち13万2000円に対する平成28年11月5日から、うち4万4000円に対する同年12月31日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを10分し、その9を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、2項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、165万円及びこれに対する平成28年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、原告が、元妻である被告において原告と長男との面会交流を拒否していることにより、精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、165万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年11月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
1 前提事実(争いのない事実のほかは、各項に掲記の証拠により認める。)
(1) 原告と被告の婚姻、離婚等
原告(昭和52年生まれ)と被告(昭和50年生まれ)は、平成19年6月15日に婚姻し、平成20年(以下略)に長男A(以下「長男」という。)をもうけたが、平成24年12月19日、被告が長男を連れて別居し、平成27年2月3日、東京家庭裁判所(以下「東京家裁」という。)の離婚訴訟(以下「本件離婚訴訟」という。)において、長男の親権者を被告と定めて和解による離婚をした。
(2) 面会交流についての審判
原告は、平成25年、東京家裁に対し、被告を相手方として長男との面会交流を求める調停(以下「本件調停」という。)の申立てをしたが、平成27年、調停は不調に終わり審判手続に移行した(甲18)。
そして、東京家裁は、平成28年1月25日、被告が原告に対し、審判確定日の属する月の翌月から、次のとおり原告が長男と面会交流をすることを許さなければならない旨の審判(以下「本件審判」という。)をした(甲1)。
ア 頻度
2か月に1回、土曜日、日曜日又は祝日
イ 各回の面会交流時間初回は1時間、2回目、3回目は2時間、4回目以降は3時間
ウ 長男の引渡方法
被告は、面会交流開始時に、引渡場所において長男を原告に引き渡し、原告は、面会交流終了時に、引渡場所において長男を被告に引き渡す。なお、被告は、上記引渡しに際して、被告の定める第三者を介する方法によることができる。
エ 長男の引渡場所
被告の定める場所とする。
オ 第三者機関の関与
当事者の一方の希望により、面会交流の付添い、長男の引渡し及び連絡調整について、面会交流の実施を援助する第三者機関を利用することができる。なお、第三者機関の利用にかかる費用は、双方折半とする。
(3) 本件審判の確定
被告は、本件審判に対して即時抗告をしたが、東京高等裁判所(以下「東京高裁」という。)は、平成28年4月8日、抗告を棄却する旨の決定をし、本件審判は確定した(甲2)。
2 争点
(1) 被告の不法行為責任の有無
(2) 原告の損害
3 争点についての当事者の主張
(1) 被告の不法行為責任の有無
(原告の主張)
被告は、本件離婚訴訟や本件調停の際、離婚が成立するまでは「離婚が成立するまでは不安定な状況だから面会は拒否する。」と主張し、離婚が成立した後は「財産分与が成立していないから面会は拒否する。」と主張し、調停委員及び裁判官から、その都度、「財産分与が成立していないことは、面会交流を拒否する理由にはならない。」旨、何度も指摘を受けたにもかかわらず、原告が長男と面会交流をすることをかたくなに拒み続けた。
そして、被告は、本件審判がされた後も、本件審判に対して抗告をし、抗告をしていることを理由になお拒否を続け、その抗告が棄却された後もなお、面会交流を拒否している。
被告は、本件審判に従って、面会交流を実施するため、日時等の詳細について誠実に協議すべき義務を負担しているというべきであり、それにもかかわらず、被告は正当な理由なく一切の協議を拒否している。
かかる被告の行為は、原告の面会交流権を侵害するものとして、原告に対する不法行為を構成するというべきである。
(被告の主張)
被告は、現在に至るまで、原告と長男との面会交流をかたくなに拒んだことはないが、本件審判が確定して以降、被告が直接的な面会交流を実行していないことは事実である。しかしながら、それは、以下の事情によるものであり、本件審判後に面会交流を行うことは著しく困難又は事実上不可能であったのであるから、被告の行為(不作為)に違法性が認められるべきではない(実質的違法性の欠如あるいは違法性阻却事由の存在)。
ア 被告の再婚と妊娠出産、養子縁組及び弟の誕生
被告は、平成28年2月27日に再婚し、再婚相手は、同日、長男と養子縁組をした。また、被告は、本件審判が確定した同年4月8日の時点で、既に再婚し妊娠中の身であり、同年(省略)、再婚相手との間に子を出産した。兄弟の誕生は、長男自身が従前から強く待ち望んでいたもので、長男は、弟の誕生を非常に喜び、日々そばを離れようとしないほどかわいがっている。
このように、短期間に環境が激変し、被告自身も妊娠中・出産直後で思うように動けない状況下、面会交流を実施することは事実上無理なのであり、また、後記イのとおり環境の変化に適応しようとしている長男の精神状態にも悪影響を及ぼしかねない。
被告としては、原告訴訟代理人からの面会の申出に対し、被告訴訟代理人を通じて状況を説明し、「当面の間、面会交流が困難である。」との返答も行っており、かかる行為に違法性はない。
イ 長男自身の強い意思
長男は、従前からの原告の暴力的言動に対する恐怖心や被告に対する気兼ね等から、原告と会うことに強い抵抗を示していた(泣いて拒否する)ところ、被告としては、本件審判の結果を踏まえ、何度となく長男に対して面会を促すべく説得を試み、ときには被告訴訟代理人も同席して説得を試みたものの、長男の意思は固く、はっきりと「前の、あの怖いパパには会いたくない。絶対嫌。どうしたら、(会いたくないと言っているのに)信じてくれるの。(今の家庭を)邪魔されたくない。」等と明言し、面会を拒み続けた。
長男は、平成27年6月24日、本件審判に先立って行われた調査官面接や試行面接の際に、調査官に乗せられて、大好きなサッカーゲームにいわば「釣られて」、あるいは原告に対する遠慮から、原告と一緒に遊んでしまい、「会いたくない。」とはっきり言えなかったことが、自身の深い心の傷となっていた様子で、本件審判後は、頻繁に涙を見せていたほか、被告の仕事中、不在時に自身の髪をはさみで切り刻んだり、他の子供に暴力を振るう等のトラブルを起こし、更には消しゴムを食べる等の奇行に走った事実が担任教諭から被告に報告される等、一時は精神的に非常に不安定で荒れた状態であった。
しかしながら、被告の再婚及び長男の養子縁組以降、養父が非常に温和な性格で、長男をかわいがることから、よく懐いており、「パパ、パパ」と慕っている。また、上記のとおり待ち望んだ弟の誕生がうれしく、かわいくてたまらない様子で、やっと得た家庭の安らぎ、安心感から、現在は精神状態もようやく安定し、落ち着いた生活を送っているところである。
もちろん、被告は、今後一切長男と原告との面会を否定するというつもりはない。しかしながら、現在、長男は、ようやく新しい安らぎの場を得て生活を始めたところであり、たとえそれが被告や養父に対し気を遣っていることに起因する言葉であるとしても、小学校高学年になろうという長男自身が、泣いて「会いたくない。」と主張している以上、強制的に面会を強いることが子の福祉にかなうものであるとは到底考えられず、致し方なく面会を差し控えてきた。かかる被告の行為に違法性はない。
ウ その他の事情(共有物分割請求その他紛争の激化)
原告は、被告による再三の売却清算の申出、お願いにもかかわらず、離婚前に購入した被告が5分の1の共有持分を有する自宅土地建物に居住し続けており、被告としては、両親の争い事を終わらせ長男との面会交流を円滑に進めていくためにも、財産分与として離婚手続中に早期処分、清算を打診し続けたが、原告は全くこれに応じなかった(決して財産分与と引換えにしているわけではない。)。そこで、被告は、原告に対し、仕方なく共有物分割請求訴訟を提起し、これが現在係属中であるほか、その後も様々な訴訟、手続が原告によって行われ、両者の関係はいまだ悪化したままである。
このような事情が存在するにもかかわらず面会交流を行うことも、また新たに長男の心に葛藤を招くものであり、子の福祉にかなうものとは到底いい難いため、被告は、従来から面会交流を差し控えざるを得なかったし、今後も当面の間は差し控えざるを得ないものと思料している。かかる事情からも、被告の行為は違法なものと評価され得ない。
(2) 原告の損害(原告の主張)
原告は、被告の上記不法行為により、多大な精神的苦痛を被っており、これを金銭に見積もると150万円を下らない。
また、原告は、被告の不法行為により、本訴提起のための弁護士費用を負担せざるを得なくなったものであり、その金額は、上記の1割の15万円である。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(被告の不法行為責任の有無)について
(1) 認定事実
前記前提事実に証拠(各項に掲記のもの)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
ア 被告は、平成24年12月19日、長男を連れて原告と別居した。
イ 原告は、長男との面会交流を求めて、平成25年、東京家裁に本件調停を申し立てたが、平成27年、調停は不調に終わって審判手続に移行し、平成28年1月25日、本件審判がされた。
ウ 原告は、平成28年2月19日、原告訴訟代理人を通じて、被告(被告訴訟代理人)に対し、本件審判に基づいて同年3月から面会交流の機会を設定してほしいので、場所、日時等を相談させてほしい旨の申入れをした(甲4)。
これに対し、被告は、同日、被告訴訟代理人を通じて、原告(原告訴訟代理人)に対し、既に即時抗告を申し立てており今のところ同年3月に面会交流の約束に応じるつもりはない旨の回答をした(甲5)。
エ 原告は、同年3月25日、原告訴訟代理人を通じて、被告(被告訴訟代理人)に対し、面会交流についての検討の状況等を尋ねた(甲6)。
これに対し、被告は、同年4月5日、原告(原告訴訟代理人)に対し、被告の抗告により本件審判は確定しておらず、被告としては紛争状態が解決するまで面会交流に応じるべきでないとの考えである旨回答するとともに、再三の問い合わせは控えてほしい旨申し入れた(甲7)。
オ 同年4月8日、本件審判に対する被告の即時抗告が棄却され、本件審判が確定した。
カ 原告は、同月19日、原告訴訟代理人を通じて、被告(被告訴訟代理人)に対し、面会交流について調整してほしい旨申し入れた(甲8)。
これに対し、被告は、同月22日、被告訴訟代理人を通じて、原告(原告訴訟代理人)に対し、〈1〉前回の試行的面会交流から約1年が経過しようとしており、その後、被告の再婚や長男の養子縁組等で著しく事情が変わったこと、(2)長男が、上記試行的面会交流の後、「自分の本心を(調査官や原告に)伝えられなかった」ということが原因でかなり荒れていたものの、再婚、養子縁組の後、近時ようやく落ち着きを取り戻してきており、現在、長男の精神的安定を再度害するべきではないこと、3〉被告が現在妊娠中であり(夏には出産予定)、長男も兄弟の誕生を非常に楽しみにしていることから、当面、母胎及び被告の精神的安定を図るとともに長男の精神的安定をも図るべく、即時の面会交流は避けるべきと考えていること、〈4〉共有物分割請求の件で、再度紛争が避けられないこと、を理由に、即時の面会交流を避けるべく調停の申立てを予定している旨回答した(甲9)。
キ 被告は、同年6月21日頃、当庁に対し、原告を相手方として自宅土地建物の共有物分割を請求する訴訟を提起した(甲3)。
ク 被告は、同年7月4日、被告訴訟代理人を通じて、原告(原告訴訟代理人)に対し、上記共有物分割請求訴訟を提起したこと及び被告が同年7月から産休に)ば頃に出産予定であることから、やはり当面の間面会交流が困難である旨連絡した(乙6)。
ケ 原告は、本訴を提起した後の同年10月ないし11月頃、東京家裁に対し、本件審判に基づく間接強制の申立てをした(同庁平成28年(家ロ)第595号)。
そうしたところ、東京家裁は、平成29年2月16日、被告は本件審判において命じられたとおり原告に対して長男と面会交流をさせなければならず、被告が当該決定の告知を受けた日以降同義務を履行しないときは原告に対して不履行1回につき4万円の割合による金員を支払うよう命じる旨の決定(以下「本件間接強制決定」という。)をし、同決定は、その頃被告に告知された。
これに対し、被告は執行抗告をしたが、東京高裁は、同年4月25日、抗告を棄却する旨の決定をした。(以上、甲13、13、14、弁論の全趣旨)
(2) 検討
ア 一般に、子の両親が別居し、あるいは離婚をした場合において、子と離れて暮らす非監護親には、子との面会交流をする権利があるものと解されている。
そして、原告は、本訴において、被告が原告との別居後現在まで原告と長男との面会交流を拒否していることをもって、原告の上記権利を侵害する不法行為であると主張するのであるが、本件において、原告と被告との間で本件審判がされ、これが確定する以前においては、原告の権利はいまだ具体性のあるものとはいえず、その侵害を惹起する被告の具体的な義務違反行為を認定することも困難であるから、本件審判確定前の被告の行為については、不法行為の成立を認めることはできない。
イ 一方、本件審判がされ、これが確定した後においては、原告の権利は本件審判によって具体化されたものということができ、これ以降、被告が本件審判に反して面会交流に応じなければ、かかる行為は、原告の権利を侵害するものとして、不法行為を構成することとなるというべきである。
しかるところ、被告は、本件審判が確定した後もこれに従わず、現在に至るまで面会交流に応じていないのであるが、被告においては、面会交流に応じていないことには理由がある旨主張しているので、これについて以下検討する。
ウ 被告は、まず、自らが再婚し、再婚相手と長男が養子縁組をしたこと、及び、被告が本件審判確定時に妊娠中であり、その後間もなく出産したことから、〈1〉被告自身が思うように動けず、面会交流を実施することは事実上無理であり、〈2〉面会交流を実施することは、環境の変化に適応しようとしている長男の精神状態にも悪影響を及ぼしかねない、と主張するが、被告の主張する事情は、いずれも一時的なものであって、現在に至るまで面会交流に応じていないことの理由となるものではない上、上記〈1〉については、被告自らが長男の引渡し等を行うことができないのであれば、親族やしかるべき機関等の第三者に依頼することも可能であると考えられ、また、上記〈2〉については、面会交流の実施が長男の精神状態に悪影響を及ぼすと認めるに足りる証拠がなく、いずれも、面会交流に応じない合理的な理由であるということはできない。なお、被告からは、小児精神科医が作成したとする平成29年3月15日付け診断書が提出されており(こ17)、同診断書においては、長男の傷病名を「心的外傷後ストレス障害(PTSD)とした上で、「平成29年3月15日初診日の精神状態では、父親との面会交流から半年以上経過しているにも関わらず、回想的侵入、驚愕反応、興奮、自傷行為が認められ、上記診断であると判断する。なお今後は、父親との面会交流行うことで、病状は悪化し、成長するにつれて本人の人格形成にかなりの影響を及ぼすことが予想される。また本人の恐怖心やパニック障害も頻回に起こすようになり、日常生活に著しい影響を及ぼす可能性が高い。面会交流は今後、避けるべきであると判断する。」と記載されているのであるが、同診断書は、被告からの「面会が好ましくない旨の診断書を書いてほしい」との希望を受けて作成されたものである上(乙18の2、乙20)、原告との面会交流が長男に悪影響を及ぼすと判断した根拠が明らかでなく、かかる診断書の記載をもって面会交流が不相当であると認めることはできない。
エ 次に、被告は、面会交流に応じない理由として、長男自身が面会を拒否する態度を示していることを主張し、長男が原告に宛てて作成したとする、「会いたくない」旨記載された手紙(15)を証拠として提出するなどしているのであるが、被告 り、かかる長男の態度は、「被告や義父に対し気を遣っていることに起因する」ものである可能性があり、しかも、その可能性は小さくないと考えられるのであり、本件審判及びその抗告審においてそのような長男の態度が既に考慮されていること(甲1、2)にも鑑みると、長男が拒否的な態度を取っていることは、面会交流に応じない理由とはならないというべきである。
オ さらに、被告は、面会交流に応じない理由として、原告との間に共有物分割請求訴訟が係属するなどして関係が悪化したままであることを主張するが、かかる事情が面会交流に応じない合理的な理由でないことはいうまでもない(なお、審判によって面会交流を命じられる事案において、両親の関係が良好であるなどというのは、極めて例外的な場合であると考えられる。)。
カ 以上によれば、被告において面会交流に応じない理由として主張するものは、いずれもそれを正当化する合理的なものとはいえないのであって、そうである以上、被告が本件審判確定後に面会交流に応じていないことは、原告に対する不法行為を構成するものというべきである。
2 争点(2)(原告の損害)について
(1) 証拠(甲12の1ないし31、申15ないし17、原告本人)によれば、原告は、被告が長男を連れて別居する前は、被告と共に長男の育児を行い、長男に愛情を注いでいたものであるが、上記別居により突然長男との関係を断ち切られ、前記のとおり、本件審判がされこれが確定した後も被告が面会交流に応じないために、現在まで長男と面会をすることができないでいるものであり、このことによって、原告は、甚大な精神的苦痛を被っているものと認められる。
そして、この精神的苦痛を金銭に換算すると、原告には、本件審判が確定し、これにより面会交流の実施が命じられた平成28年5月1日以降、2か月を経過することに4万円の損害金が発生していると認めるのが相当である。
(2) ところで、原告は、本訴において、本件の口頭弁論終結時までに生じた原告の損害について賠償を求めているものと解されるところ、前記1(1)ケのとおり、原告は、一方で、東京家裁に対して本件審判に基づく間接強制の申立てを行い、平成29年2月16日、被告が当該決定の告知を受けた日以降同義務を履行しないときは原告に対して不履行1回につき4万円の割合による金員を支払うよう命じる決定(本件間接強制決定)を得て、同決定はその頃被告に告知され、これに対する執行抗告も棄却されたというのであるが、仮にこの間接強制に係る金員が被告から支払われれば、その金員は原告の損害額に充当されるものと解され、かつ、原告においては、被告が面会交流の義務を履行していないため、本件間接強制決定を債務名義として金銭の取立てをすることができるのであるから、同決定により既に支払を命じられた金員の限度においては、原告が現実に上記間接強制に係る金員の支払を受けたか否かにかかわらず、改めて損害賠償を請求する必要はなく、これを請求する訴えは、訴えの利益に欠けるものというべきである。
したがって、本件訴えは、本件間接強制決定により支払が命じられた、被告に対する告知の日である平成29年2月16日(告知の日は証拠上明らかではないが、決定から間もなく告知されたものと考えられるので、決定の日に告知がされたものと認める。)以降2か月を経過するごとに4万円の金員の限度においては、不適法であるといわざるを得ない。
(3) そうすると、本件において認められる原告の慰謝料の額は、結局、本件審判が確定し、これにより面会交流の実施が命じられた平成28年5月1日から、本件間接強制決定が被告に告知される前日の平成29年2月15日まで、上記(1)により認められる金額、すなわち16万円となる。
(4) また、本件の事案の内容、審理の経過、認容額等、本件に顕れた全ての事情を総合して勘案すると、原告の負担する弁護士費用は、1万6000円の限度で被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。
(5) なお、遅延損害金は、平成28年5月1日から同年10月31日までの期間に生じた損害13万2000円については原告の主張する同年11月5日から、同年11月1日から同年12月31日までの期間に生じた損害4万4000円については最終の不法行為日である同年12月31日から、それぞれ発生するものと認められる。
第4 結論
以上によれば、本件訴えは、主文1項のとおり一部不適法であり、その余の部分の請求は、主文2項の限度で理由があり、その余は理由がない。
東京地方裁判所民事第31部
裁判官 鈴木進介