【親子りんくす@熊本】の会員が当事者となった裁判例です。
この裁判例では,不倫を「婚姻共同生活体を破壊させ、夫婦間の具体的同居協力義務が喪失したことを自認する行為」と判示してますが,同様に,原告は被告の正当な理由のない別居も「婚姻共同生活体を破壊させ、夫婦間の具体的同居協力義務が喪失したことを自認する行為」だと主張しました。しかし,そのことに鹿田あゆみ裁判官は何ら判断を示さず,全くの無視をした判決でした。
また,「婚姻費用分担義務は、婚姻という身分関係から発生する義務であり、婚姻関係から生ずる他の義務と対価関係もしくは牽連関係にはなく、また、円満な婚姻関係や婚姻関係の維持に向けた双方の努力等の事実状態から発生するものでもない。」という判断も,夫婦間に扶助義務が規定された立法趣旨や,信義則をどのように反映した判断なのか,全く説明がなく,鹿田あゆみ裁判官はこのことにも無視と思考停止を選んだようでした。
他にも原告の主張で無視され,全く判断を示していないものが多くあり,「そんなことに合理的判断をしてしまったら立派なヒラメになれないんです」ということなのかもしれません。
なお,神戸大学大学院法学研究科の木下昌彦准教授は,「裁判の国民に対する信頼は,裁判の結論それ自体ではなく,その理由によってこそ支えられているのであり,理由の誠実な明記は民主主義国家において説明責任を果たすべき裁判所の義務であると言える。」と述べていますが,その程度のことも理解できない裁判官がいることは残念なことです。

 

原告 X
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 久保田紗和

主文
1 原告の被告に対する平成29年7月18日から原告及び被告の別居の解消または離婚に至るまでの婚姻費用分担義務が二男の養育費としての相当額を超えて存在しないことを確認する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し、その3を原告の、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1 原告の被告に対する平成24年10月29日から原告及び被告の別居の解消または離婚に至るまでの婚姻費用分担義務が二男の養育費としての相応額を超えて存在しないことを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

 

第2 事案の概要
1 事案の概要等
本件は、原告の妻である被告が、夫である原告を相手方として熊本家庭裁判所に対してした婚姻費用分担調停申立て(同庁平成26年(家イ)第54号、後に審判移行となり、同庁平成26年(家)第645号婚姻費用分担申立事件)において、熊本家庭裁判所が原告に対して月額4万7000円の婚姻費用の支払等を命じる旨の審判をし、同審判が確定したことに対し、原告が、被告に対し、被告は、原告の同意を得ず、正当な理由なく別居をしており、また、被告には、現在、交際関係にある男性がいること等からすると、被告が監護する二男の養育費の範囲を超えた婚姻費用を請求する権利を有しない等と主張し、二男の養育費の相当額を超える範囲における婚姻費用分担義務の不存在の確認を求めている事案である。
2 前提事実(当事者に争いのない事実または括弧内掲記の証拠により容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告と被告は、平成19年3月15日に婚姻した夫婦であり、両者の間には、長男A(平成22年(以下略)出生、以下単に「長男」という。)、二男B(平成24年(以下略)出生、以下単に「二男」という。)の二人の子がいる。
イ 被告は、平成24年10月29日、二男を連れて大分県C市内の実家に戻って実家での居住を開始し、以降、原告との別居を継続している(以下「本件別居」等という。)。
ウ 本件別居以降、原告は長男の監護を行い、被告は二男の監護を行っている。
(2) 別居調停の成立(甲10、乙6)
ア 被告は、本件別居直後である平成24年11月頃、原告に対して離婚調停を申し立てた(熊本家庭裁判所平成24年(家イ)第1058号夫婦関係調整(離婚)調停申立事件、以下「第1調停事件」という。)。
イ 原告と被告は、平成25年4月15日、熊本家庭裁判所で開催された調停期日において、以下の内容の合意を行い、調停を成立させた(以下「本件第1調停」という。)。なお、本件第1調停成立の際、原告はD弁護士(以下「D弁護士」という。)を代理人として選任しており、D弁護士も調停に立ち会っていた。
(ア) 当事者双方は、当分の間、別居を継続する。(以下「本件別居合意」という。)
(イ) 当事者双方は、婚姻解消又は同居するまでの間、長男の監護者を父である原告、二男の監護者を母である被告と定める。
(ウ) 当事者双方は、被告が長男と、原告が二男とそれぞれ月2回程度(原則として第2、第4土曜日)の面会交流をすることを認め、その具体的日時、場所、方法等については子の福祉を慎重に配慮して、当事者間で事前に協議して定める。
(エ) 調停費用は各自の負担とする。
(3) 婚姻費用分担審判(甲1、2、乙11)
ア 被告は、平成26年1月16日、熊本家庭裁判所に対し、E弁護士(以下「E弁護士」という。)を申立代理人として、原告を相手方とする婚姻費用分担調停(同庁平成26年(家イ)第54号)を申し立てた。
イ 同婚姻費用分担調停は、平成26年7月24日、不成立で終了し、審判手続に移行した(熊本家庭裁判所平成26年(家)第645号婚姻費用分担申立事件)。
ウ 熊本家庭裁判所は、平成28年5月20日、以下の内容の審判をした(以下「本件婚姻費用分担審判」という。)
(ア) 原告は被告に対し126万9000円(被告が婚姻費用分担調停を申し立てた翌月である平成26年2月から平成28年4月まで各月4万7000円の婚姻費用未払分合計額)を支払え。
(イ) 原告は被告に対し平成28年5月から両名の同居または離婚まで毎月末日限り4万7000円を支払え。
(ウ) 手続費用は各自の負担とする。
エ 原告は、平成28年5月30日、福岡高等裁判所に対し、本件婚姻費用分担審判に対し即時抗告を申し立てたが、同裁判所は、同年8月17日、原告の抗告を棄却する旨の決定をした(福岡高等裁判所平成28年(ラ)第240号婚姻費用分担の審判に対する抗告事件)。
3 当事者の主張の要旨
本件において、原告が、婚姻費用分担義務の不存在の理由としているのは、被告の同居義務違反及び被告の不貞行為であり、これに対する当事者の主張の要旨は以下のとおりである。
(1) 被告の不同意別居(同居義務違反)
ア 原告の主張
(ア) 婚姻費用の不存在
婚姻費用分担は、民法760条において、「夫婦は、その資産、収入その他の一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定されており、夫婦間で婚姻費用分担の対象となるのは「婚姻から生ずる費用」である。そして、「婚姻から生ずる費用」は、夫婦が円満な婚姻関係を維持する上で必要な、「夫婦間における共同生活保持のための必要な費用」と解されており、これは、「円満な婚姻関係を維持するための必要経費」と言い換えることができる。憲法24条1項が「婚姻は、・・・夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と定められていることからも、夫婦間の婚姻における義務は、夫婦双方が円満な婚姻関係の維持を目的として負担し合う義務であることに疑いの余地はない。然るに、民法760条が夫婦で分担すべき費用を、あえて「婚姻から生ずる費用」のみに限定していることからすれば、夫婦間に婚姻費用分担義務があるからといって、円満な婚姻関係の維持に資さない費用までも無条件に分担しなければならないわけではない。本件において、被告は別居直後から離婚を求めた調停を申し立てており、その後も原告の再三の話し合いの要望にも応じず、頑なな離婚の意思を示し、実態としての婚姻関係を全く維持しようとしていないのだから、別居後の被告に円満な婚姻関係の維持を目的とした「婚姻から生ずる費用」は全く発生していない。別居後の被告に生活に必要な費用が生じたとしても、それは「夫婦間における共同生活保持のために必要な費用」に該当しない、婚姻関係の維持とは無関係な被告の個人的支出でしかない。
また、夫婦が円満な婚姻共同生活を営むことを目的としていない被告には、積極的な協力をして夫婦生活を継続していくことを立法趣旨とした民法752条を適用して、原告に対して扶助義務の具体的形成を請求する権利は認められない。
したがって、被告が原告の同意を得ず、正当な理由なく別居をし、その後も、離婚意思を明確にして原告との別居を継続し、実態としての婚姻関係を維持しない等の同居義務に違反している以上、原告は二男の養育費相当額を超えた婚姻費用の分担義務を負わない。
(イ) 権利濫用
婚姻関係にある夫婦には同居義務があるのだから、特段の理由がない被告の一方的な不同意別居は、その行為自体が婚姻関係の継続を困難にする身勝手な有責行為である。また、本件においては、被告の不同意別居時に婚姻関係が破たんしていた事情も存在せず、婚姻関係が破たんしていた事情がない限り、不同意別居そのものが同居義務に違反した婚姻関係の継続を困難にする他方配偶者への裏切りとなる有責行為である。また、同居義務の違反を継続している者が、その義務違反に対する有責性は問われず、婚姻費用分担の名目で金銭的利益を享受し続けることができるというのであれば、甚だ社会正義に反しているというほかない。
そうすると、原告に専らあるいは主な別居原因があるとはいえず、別居前に婚姻関係が破たんしていた事情もなく、原告は別居後も被告に夫婦関係の見直しを度々提案しているにもかかわらず、被告はそれらの提案を頑なに拒否しているのであるから、被告の正当な理由のない不同意別居やその継続は、その行為自体が婚姻関係における義務に反する有責行為である。そのため、有責配偶者である被告が婚姻費用分担を請求することは、権利の濫用であり、信義則に反するため認められない。
イ 被告の主張
(ア) 婚姻費用分担義務について、原告は、被告が、婚姻関係としての積極的な協力をして夫婦関係を維持していくための協力義務を何ら履行していないことから、婚姻費用分担義務は存在しない旨の主張をしているようであるが、婚姻費用分担義務は、婚姻によって当然に発生する義務であり、婚姻破たんや別居があっても婚姻費用分担義務を認めるのがこれまでの判例通説の考え方である。そして、婚姻の破たんや、婚姻費用を請求する者の有責性については、生活保持義務から生活扶助義務へとその程度を軽減させ、有責性が著しい場合には権利濫用または信義則違反としてその請求を認めないとするのが一般的な見解である。
(イ) そして、被告による別居及び別居の継続については、以下のとおり正当な理由があり、被告による婚姻費用分担請求は権利濫用にあたらない。
a 被告の別居に正当な理由があること
被告が原告と別居をしたのは、原告からの肉体的暴力や精神的虐待が原因であり、正当な理由がある。
被告は、原告との同居期間中、原告から殴られたり、暴言を吐かれたりして、平成20年9月頃から一度別居したことがあり、その時は原告が手を挙げないことを約束したため、8か月ほどで同居を再開した。しかし、原告は被告に自分の価値観を押し付け、思い通りにならないと長い説教を繰り返し、暴力を振るうなどしたため、被告は精神的に追い詰められていき、自殺まで考えるようになった。そのような状況の中で、原告が、子どもを後部座席に乗せたまま激しく急ブレーキを踏んだり、子どもの目の前で被告に暴力を振るうなどして当時まだ幼かった子どもが気を遣うなどの様子が見られたにもかかわらず、原告はお構いなしに被告を怒鳴り続けるという態度をとったため、子ども達のためにも、もはや婚姻関係の維持は困難であると考え、被告は離婚を決意した。被告は、原告に離婚話を持ちかけたものの、原告は「どうしたいんだ」と言うばかりで被告を相手にしようとしなかった。被告は同居生活の中で、思い通りに物事が進まない時に原告が長時間の説教を繰り返したり、暴力を振るったりすることが分かっており、1人で別居の話し合いに太刀打ちできると思わなかったため、両親に迎えに来てもらい別居に至った。
このように、被告が原告と別居に至った原因は原告からの肉体的暴力や精神的虐待にあり、正当な理由がある。
b 被告の別居の継続に正当な理由があること
原告は、被告の別居を不同意別居と主張しているが、以下のとおり、被告は原告との別居合意に基づき別居を継続し、その後の同居が困難となったのは原告と被告間における子の面会交流に関するトラブルを契機とする夫婦関係における信頼関係の破壊が原因であり、現在においては、婚姻関係は破たんしているといえるから、被告の別居の継続には正当な理由がある。
(a) 別居合意に基づく別居の継続
被告は、原告と別居して間もなく申し立てた第1調停事件において、原告と被告とが別居を継続することを相互に合意して(本件別居合意)、別居を前提として面会交流の定めをするなどしており、不同意別居ではない。
なお、原告は、本件別居合意について、民法が夫婦の別居制度を認めていないことから、原告と被告が調停において別居の合意をしたとしても無効であり、また、本件別居合意は、別居期間を「当分の間」としており、抽象的表現で合意内容が特定されておらず、本件別居合意は法的拘束力を発生させない旨の主張をしている。
しかしながら、原告が主張の前提とする学説(甲23)においても、具体的な特定の場合における別居の合意の効力は否定されず、事情によっては一時別居も民法752条に反するものではないと解されている。そして、本件別居合意における「当分の間」とは、本件第1調停第2項における監護者の定めとの整合性から「婚姻関係解消または同居するまでの間」と解することが相当であり、原告自身、本件第1調停成立時に離婚も念頭におきながら手続きを進めていたことは明らかであり、別居解消の原因が同居か離婚しか考えられないことからすると、原告においても婚姻関係解消または同居するまでの間の別居を念頭において本件第1調停を成立させたものといえ、本件別居合意は具体的な特定のある別居合意といえ、無効とはいえない。
(b) 本件別居合意後における婚姻を継続し難い事情
原告と被告との間には、別居合意を行った後の平成25年7月頃、原告が、同年4月に実施された面会交流の際の被告の父親が長男に対し「守ってやれんでごめんな」と発したことが虐待にあたるとして、同年7月6日に実施予定であった面会交流に被告が被告の父親を同行することを拒否し、同行の条件として被告の父親が暴言を反省して改善を約束する動画を添付して送るよう要求し、その要求を撤回しなかったことを契機に面会交流の協議を巡って紛争が生じた。その後、被告は対応に苦慮して、E弁護士に第2回目の離婚調停を依頼し、弁護士を通じて面会交流の協議を行ったが協議の折り合いがつかず面会交流が実施できないという状況に陥り、対立関係が生じた。
さらに、平成25年12月、原告は面会交流の不履行を理由として被告及びE弁護士に対し500万円もの損害賠償請求訴訟を提起した。被告にとっては、500万円の大金を請求されるだけではなく、自分が依頼した弁護士までが巻き込まれることになったことで精神的な苦痛を感じた。平成26年3月以降、E弁護士が辞任をして、被告訴訟代理人が引き継いだが、原告は面会交流の協議の場で、面会交流の協議に直接関係のないことや、面会交流に関しても自分の考えを曲げずに執拗に質問を繰り返すなどの態度を示し、協議が難航するなどの事態が生じ、さらには、面会交流の際に警察沙汰となったことが何度かあり、被告の精神的負担は増大した。その後も、原告は被告に対し、平成26年7月、平成28年2月、平成29年6月と二男の監護者変更の申立及び子の引き渡しの審判を申し立て、平成27年10月19日付で、被告に対し二男を連れ去ったことが違法であるとして500万円の慰謝料の支払いを求める催告書を送付し、平成28年9月には婚姻費用減額の審判を申し立て、同年10月には本件訴訟を提起し、平成29年6月には同居審判を申し立てるなどした。被告も平成29年8月、離婚訴訟を提起した。
このように、別居合意の後も、原告と被告との間には面会交流の協議を巡って紛争が生じ、その後、原告の訴訟提起によってその対立は鮮明化し、さらには、その後の審判等や訴訟提起により原告と被告の葛藤状態は高まり、現在もその状態が継続している。また、被告は、上記各訴訟や審判、面会交流の協議等に対し、対応を迫られ、精神的負担だけではなく、時間や費用の負担を強いられている。このような客観的状況に照らせば、社会通念に照らして原被告間の夫婦関係は対立が鮮明化し、極めて高い葛藤状態にあり、夫婦関係の信頼は失われており、婚姻関係が破たんしていることは明らかである。したがって、現在において、原告と被告が同居をすることは困難であり、被告が同居義務に違反した事実はない。
ウ 被告の主張に対する原告の反論
(ア) 被告の別居に正当な理由があることについて
被告が別居原因とする肉体的暴力や精神的虐待については、すべて客観的裏付けがない事実であり、別居後の原告と被告とのやり取りからしても、当該事実がないことは明らかである。
(イ) 被告の別居継続に正当な理由があることについて
a 別居合意について
本件別居合意は、民法が夫婦の別居制度を認めていないことからすると、原告と被告が調停において別居の合意をしたとしても無効であり、また、本件別居合意は、別居期間を「当分の間」としており、抽象的表現で合意内容が特定されておらず、本件別居合意は法的拘束力を発生させない。
また、別居後の合意を同居義務違反として無効をもって論じることが適当でないのは、「事実上の一時的別居」に限られており、本件別居合意は期間が具体的に特定されておらず、事実上の無期限となっており無効である。そして、このような別居合意は、夫婦の一方が同居を要請した時点で、民法752条の趣旨から無効になると解するべきである。
b 別居合意後の事情について
被告は、原被告間の夫婦関係は子の面会交流を巡る対立を契機として、対立が鮮明化し、極めて高い葛藤状態にあり、夫婦関係の信頼は失われ、婚姻関係が破たんしていることが明らかである旨主張しているが、被告の別居時に婚姻関係が破たんしていた事実がない以上、被告が別居をせざるを得なかった正当な理由はなく、面会交流を巡る問題は同居状態に戻れば発生することはないのだから婚姻関係が破たんしているとは言えない。被告は、原告と話し合いをすることなく一方的に別居をし、原告に暴言を伝えるメールをしたり、インターネット上で原告の中傷をしたりするとともに、面会交流でも非寛容な態度で問題を生じさせ、原告が夫婦関係についての話し合いを提案しても、頑なに応じようとせずに別居を継続していることは、被告が一方的に婚姻関係を破たんさせようとしているというほかないのであるから、現在の婚姻関係に対して、被告に専ら有責性があるのは明らかである。
(2) 被告の不貞行為
ア 原告の主張
被告は、平成29年10月14日、原告と二男との面会交流時にFと名乗る男性を同行させ、被告と交際していること、原告と被告との離婚が成立し次第、被告と結婚する予定である旨伝えてきた。
被告が正当な理由もなく原告と別居し、原告の再三の夫婦関係の改善の申し出を拒否し続け、一方的に婚姻関係を破たんさせようとしていることは前述したとおりである。そして、上記事実に加えて、被告の上記の言動は、被告がFと名乗る男性と交際関係にあるのであれば、夫婦が積極的な協力をして婚姻生活を持続していくための具体的努力をせず、不貞によって原告との婚姻関係を破たんさせようとしており、仮に交際関係になかったとしても虚言によって原告との婚姻関係を破たんさせようと意図している。このような被告が原告に対して婚姻費用の分担を請求することは著しく正義に反する。そして、被告は、別居時から一貫して原告との実質的な婚姻関係を否定した言動を行っているのであるから、被告の不同意別居時において原告の被告に対する扶助義務は免責される。
イ 被告の主張
原告との面会交流時に、被告が引き渡しの場に男性を同行し、同男性が原告主張の発言をした事実は認める。しかしながら、同男性は被告の父親の会社に勤める従業員で、被告とは友人関係にすぎず、恋愛感情や肉体関係もなく被告とは交際関係にはなく、婚約をしている事実もない。被告は、前述のとおり、原告との間の二男の面会交流を巡るトラブルだけでなく、原告自身が対立関係を煽り、熾烈化する中において、さらに同居や子の引き渡しの審判を申立てて、被告代理人を通じての協議の中でも被告に対する不信感を露わにし、被告に対する非難を繰り返しながら執拗に同居義務を果たせと申し入れてくる原告の言動は被告にとっては極めて不可解であり、その執着には恐怖心を抱くほどであった。そこで、被告や被告の両親は、婚姻関係はすでに破たんしており、夫婦関係の修復は難しいことを原告が理解すれば、少しは原告の行動が収まるのではないかと考えて、同男性に被告と婚約しており、原告との離婚が成立したら被告と結婚するつもりである旨の虚偽を述べてもらうことにしたものである。
前述のとおり、被告が別居をしたそもそもの原因は原告の暴力や暴言にあり、その後同居の再開に至らなかったのは原告の行為によって客観的な対立状態が明確になるのに伴って感情的対立が激化したことを要因とするから、被告が原告に対して婚姻費用の請求をすることが信義則に反するとも言えない。また、仮に、上記男性の言動により被告の行為が権利濫用に該当するとしても、それは男性の出現した時期以降であって、遡及して請求当時からの婚姻費用請求が権利濫用に該当するものではない。

 

第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加え、括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
(1) 本件別居以前の生活状況等(甲10、乙5、原告本人、被告本人)
ア 原告と被告は、共にG大学に通っていたことから親しくなり、交際を開始し、平成19年3月15日に婚姻し、同月下旬ころから山口県(以下略)内のアパートで同居を開始した。
イ 原告と被告が同居を開始した直後から、被告が小さな声で話をして聞き取りができない時や、返答に詰まって原告の問いかけに答えない等することに原告が苛立って威圧的な態度をとり、暴力を振るうことが度々あった。
ウ 原告と被告は、平成20年5月に結婚式を挙げ、同年10月頃を目途に熊本へ転居し、原告の両親と同居を開始することになった。
エ 被告は、平成20年9月頃、原告の威圧的な態度や暴力を振るわれそうになって怯えることに疲れ、また、原告の両親と同居を開始することへの不安もあったことから、突発的に原告と同居していたアパートを出て大分県C市内の実家に帰り、原告との別居を開始した(以下「前件別居」という。)。
オ 前件別居後、原告は、被告の実家を訪れて話し合いをし、その後、被告との間でメールを通じての話し合いを行った。原告と被告は、何度か話し合いを重ねる中で、原告が被告に対して暴力を振るわないこと、被告が黙り込んでも怒鳴らないこと、被告は原告に対して無視をしないよう努力すること等を約束して同居を再開させることになった。
カ 平成21年6月頃、被告が原告に同居を再開させることを連絡し、原告が被告をC市内の実家まで迎えに行き、その後、原告と被告は、H市内の原告の実家で同居を開始した。原告と被告との間には、平成22年(以下略)に長男が、平成24年(以下略)に二男が誕生した。
キ 被告は、原告と同居を再開して以降、原告に対して気に入らないことがあると、不愉快さを態度で表したり、原告を無視したりすることがあったため、原告も時には厳しい口調で被告に態度を改めるよう言うこともあった。しかしながら、被告は、原告がオンラインゲームに集中することや原告の日常の言動に不満を募らせ、原告を無視する態度を悪化させていった。そして、被告は、平成24年10月29日、原告が仕事に出かけた後、子らを連れて実家に帰ろうとし、被告の両親に迎えに来てもらった。原告は、同居していた父から被告が子らを連れて実家に帰ろうとしていることを知らされて自宅に戻り、子らを渡すことに抵抗したが、被告の両親が呼んだ警察の説得により、被告が二男を連れて実家に戻ることになり、本件別居を開始した。
(事実認定の補足説明)
被告は、本件別居の理由を、同居再開以降の原告による肉体的暴力や精神的虐待にある旨主張し、これに沿う供述をしている。しかしながら、被告の供述する原告による肉体的暴力や被告の人格を否定するような言動については、これを裏付ける客観的証拠はなく、これらを認定することはできない。かえって、本件別居直前に原告が撮影した動画や写真(甲15から21、45)によると、被告が原告に対し恐怖を抱いていた様子はなく、さらには、本件別居後に被告が原告に対して暴言を浴びせる内容のメールを送信していること(甲8、乙27)からしても、本件別居当時、被告が原告に対して何らかの不満を抱いていたことは認められても、恐怖を抱いていたことまでを認定することはできず、原告からの肉体的暴力や精神的虐待があったものとは認められない。
(2) 本件別居後の状況(甲10、乙5、原告本人、被告本人)
ア 被告は、平成24年10月30日、C市役所に、原告と離婚をして二人の子を引き取って親権者になりたい旨の相談へ行き、その後、法テラスに相談へ行った後、同年11月頃、熊本家庭裁判所に第1調停事件を申し立てた。
イ 原告は、本件別居直後から、被告に対して二男に会わせて欲しい、二男の様子を画像で送って欲しい旨依頼をして、長男の画像をメールで送る等していたが、被告に同居を求めることはしなかった。
ウ 熊本家庭裁判所で行われた、第1調停事件の調停期日において、被告は子らを引き取って原告と離婚をしたい旨申し出たが、原告は、離婚はしないとしてこれを拒否した。そこで、原告及び被告は、当分の間、原告が長男を監護し、被告が二男を監護して別居を継続している現状を追認することとし、本件別居合意及び子らの面会交流についての具体的合意をして、平成25年4月15日、本件第1調停を成立させた。
(3) 本件第1調停以降の原告・被告間の紛争経緯等
ア 面会交流を巡る紛争の経緯(甲10、30、乙5、26、27、原告本人、被告本人)
(ア) 本件第1調停成立直後の平成25年4月20日に実施された面会交流終了時に、被告の父親が長男に対して「守ってやれんでごめんな」などと発言したことについて、原告が当該発言は不愉快であり、子に対しても片親疎外との虐待に該当すると抗議した。
(イ) 同年5月11日、被告が面会交流を行うため、父とともに二男を連れてH市の原告の自宅を訪れたところ、被告から面会交流の場所について連絡がなかったことから、面会交流は実施されないものと誤解した原告が長男を連れて外出していたことから面会交流は実施されなかった。
(ウ) 原告及び被告は、同年5月にそれぞれ熊本家庭裁判所に履行勧告の申立てを行い、熊本家庭裁判所は、原告及び被告のそれぞれに対し、相手方と協議を行い、面会交流を行うよう勧告をした。
(エ) その後、原告と被告は協議を行い、同年6月15日、C市内で面会交流が実施されたが、同年7月6日に予定されていた面会交流の協議において、同月5日、被告が面会交流の場に両親を同行させる旨伝えたところ、原告が、被告の父親が長男に対して「守ってやれんでごめんな。」と述べたことについて、暴言癖があり、被告の父親が反省して改善があったというなら、それを被告の父親本人が述べている動画を添付して送付するよう依頼し、被告は原告が主張する動画送付は屈辱的であり、面会交流を拒否されたものとして了解する旨のメールを送信し、原告が動画の送付について、同月6日までに撤回しなかったことから、同日の面会交流は実施されなかった。
(オ) 原告と被告は、前記面会交流の日程や場所についての調整を、専らメールで行っていたが、面会交流時の要望や不満を述べ合う中で、お互いを中傷する内容のメールを送信し合うようになっていった(乙27)。
イ 被告による第2調停事件申立等(乙5、26)
(ア) 被告は、平成25年7月2日、C市役所へ原告と離婚したい旨の相談へ行き、C市役所の担当職員の助言により法律相談の予約をし、同月16日、法律相談の担当弁護士であったE弁護士に、原告との離婚や子の面会交流について相談をし、同年8月2日、E弁護士との間で委任契約を締結した。
(イ) 被告は、平成25年8月5日、E弁護士を代理人として、大分家庭裁判所に離婚調停を申し立てた(以下「第2調停事件」という。)。
(ウ) 大分家庭裁判所は、平成25年10月1日、第2調停事件を熊本家庭裁判所へ移送する旨の審判をした。
(エ) 平成26年1月23日、熊本家庭裁判所で第2調停事件について第1回調停期日が行われた。なお、後記ウで認定のとおり、原告がE弁護士に対して損害賠償請求訴訟を提起したため、同年3月以降、被告の代理人はE弁護士から久保田紗和弁護士(以下「久保田弁護士」という。)へと変更となった。
(オ) 第2調停事件については、原告が離婚には応じないとの意向を示し、不成立で終了した。
ウ 原告による損害賠償請求訴訟の提起(甲10、乙4)
(ア) 原告は、平成25年7月6日、面会交流を行う予定であったI動物園へ行ったが、前記アの経緯から被告は面会交流の場へ行かなかった。そこで、原告は、面会交流の代替日を求めたが、被告はこれに回答しなかった。また、面会交流の予定日の前日であった平成25年7月19日、被告は被告と二男が風邪気味であるため面会交流を中止する旨伝えてきた。そこで、原告が面会交流日の代替日を求めると同時に二男の様子を伝える旨のメールを送信しても、被告はこれに回答しなかった。
(イ) 原告は、平成25年8月8日、熊本家庭裁判所に履行勧告の申立てを行った。同月9日、E弁護士から原告に対して、翌日の面会交流は被告の体調不良のため実施できない旨の連絡があり、原告は同年6月以降面会交流が実施できていないため、父子三人での面会交流を実施したい旨申し出たが、翌日の面会交流について被告から明確な回答がなく、E弁護士からも回答がなかったため実施されなかった。原告は、同年9月24日、E弁護士に対し、本件第1調停で合意された面会交流を履行するよう求めたが、E弁護士からは第2調停事件の手続きの中で検討することが適切であると考えている旨の連絡があった。原告は、同年10月21日、E弁護士に対してメールを送信したが、以降E弁護士から連絡がなかったため、同年10月31日、熊本家庭裁判所に面会交流についての履行勧告を申し立てた。
(ウ) 原告は、同年11月12日、熊本家庭裁判所の担当者から、原告の住所を間違っていたためE弁護士が郵送した返事が届かなかったこと、同様の理由で大分家庭裁判所からの移送通知書が原告に届かず、第2調停事件の手続きが滞っていること等が伝えられた。また、同月19日、熊本家庭裁判所の担当者からE弁護士には本件第1調停で合意された面会交流を実施する旨を伝えたとの連絡があった。しかしながら、E弁護士からはその後も連絡がなかったため、原告は、同年12月10日、熊本地方裁判所に対し、被告とE弁護士を被告として面会交流を不当に拒否されたことにより精神的苦痛を被ったとして連帯して慰謝料500万円の支払いを求める損害賠償請求を提起した(同庁平成25年(ワ)第1112号)。
(エ) 熊本地方裁判所は、原告の請求を一部認容し、被告及びE弁護士に対し慰謝料20万円の限度で原告の請求を認める判決をした。原告及び被告は、それぞれ熊本地方裁判所の判断を不服として控訴し、福岡高等裁判所は、平成28年1月20日、第1審の判決を変更し、原告の請求を棄却する判決をした(同庁平成27年(ネ)第443号損害賠償請求控訴事件)。
エ 原告・被告間における家事事件の経緯等(甲30、乙12から15、17、26、原告本人、被告本人)
(ア) 被告は、第2調停事件が係属中であった平成26年3月頃、久保田弁護士を申立代理人として、面会交流減縮の調停を申し立てた。
(イ) 原告は、平成26年7月25日、熊本家庭裁判所に対し、被告を相手方として、二男の監護者変更及び引き渡しを求める家事審判を申し立てた。
(ウ) 被告は、平成26年8月11日、熊本家庭裁判所に対し、久保田弁護士を申立代理人として、原告を相手方として、長男の監護者変更及び引き渡しを求める家事審判を申し立てた。
(エ) 熊本家庭裁判所は、原告及び被告が申し立てた前記(イ)、(ウ)の子の監護者変更及び子の引渡しの申立てについて、いずれも却下する旨の審判をした。原告は、同審判を不服として、福岡高等裁判所へ即時抗告を申し立て、同裁判所の抗告棄却の決定に対し、特別抗告の申し立てた。
(オ) 原告及び被告の双方が、前記(イ)、(ウ)の子の監護者変更及び子の引渡しの申立てをしたため、被告が原告を相手方として申し立てた婚姻費用分担調停(熊本家庭裁判所平成26年(家イ)第54号)及び前記(ア)の面会交流減縮調停は、事実上進行が停止され、平成27年末頃から進行が再開された。
(カ) 原告は、平成28年2月17日、熊本家庭裁判所に対し、被告を相手方として、二男の監護者変更及び引き渡しを求める二度目の家事審判を申し立てた。
(キ) 原告は、平成28年9月5日、熊本家庭裁判所に対し、被告を相手方として、本件婚姻費用分担審判で出された婚姻費用の減額を求める旨の家事審判を申し立てた。
(ク) 原告は、平成28年10月31日、本件訴訟を提起した。
(ケ) 熊本家庭裁判所は、平成28年11月29日、前記(ア)の面会交流減縮申立てについて、原告と二男の面会交流について、本件第1調停と同様、月に2回または、これに代えて、月1回の1泊2日の宿泊を伴う面会交流を認める旨の審判をした。
(コ) 原告は、平成29年6月21日、熊本家庭裁判所に対し、被告を相手方として、二男の監護者変更及び引き渡しを求める三度目の家事審判を申し立てた。
(サ) 被告は、平成29年8月、熊本家庭裁判所に対し、原告と離婚を求める旨の離婚訴訟を提起した。
オ 面会交流を巡る原告・被告間の対立等
(ア) 平成28年3月25日に実施された面会交流の際、事前に原告から二男の宿泊について強い要望があったが、被告が、二男がまだ幼く、乳離れができていない状態であったため、久保田弁護士を通じて宿泊には応じられない旨伝えていたものの、原告が久保田弁護士との協議がどうなっているのか尋ねてきたため、二男の引渡しに同席していた被告の母親が、原告が二男を連れ去るのではないかと誤解をし、面会交流について打ち切ろうとしたところ、二男を奪い合う形となり、被告の母親が警察を呼ぶ等した。その際、被告は原告に対し「この外道が」等と言って罵った。
(イ) 平成28年10月15日、二男の幼稚園の運動会が実施され、その後、原告が二男を引き取り、宿泊を伴う面会交流が実施される予定であったが、二男が泣き出したため、被告の父親が二男を連れて帰ろうとしたところ、原告と被告の父親が二男を奪い合う形となり、被告が幼稚園教諭を通じて警察を呼ぶ旨依頼して、警察が出動する事態となった。
(ウ) また、平成29年8月5日に実施された面会交流の際、同年10月7日に実施された二男の幼稚園の運動会の際にも、原告と被告との間にトラブルが生じて警察が出動する事態となった。
(4) 原告による同居の請求(甲25から29、乙16、原告本人、被告本人)
ア 原告は、平成26年12月29日付で久保田弁護士に宛てた書面において、「今後に向けて必要な改善点を率直に話し合い、それについての改善の努力をしていきたいと思っています。」「今後の対応としては、面会交流で私と妻が同伴し、不和になるとしたら何が原因か不和を回避する手段はないのかを検証するのがよいと思っています。」と伝えた。これに対し、久保田弁護士は、平成27年1月6日付の書面で、被告の離婚意思は固くそのことは揺るがないとの回答をした。
イ また、原告は、平成26年7月25日に申し立てた二男の監護者変更及び引渡しの申立書(乙12)の中で、被告が夫婦の同居義務に違反している旨の主張を行った。
ウ さらに、原告は、平成27年11月27日付で久保田弁護士に宛てた書面において、「婚姻費用について、妻がこれを主張するなら、まず同居義務を果たしてください。」と記載した。久保田弁護士は、同年12月3日付の書面で、婚姻費用を請求するのであれば同居義務を果たすようにとの点については応じかねる旨の回答をした。
エ 原告は、平成29年6月21日、熊本家庭裁判所に対し、被告を相手方として、同居を求める旨の家事審判を申し立てた。
(5) 被告の交際関係(甲47、48、53)
ア 被告は、遅くとも平成29年7月頃から、被告の父親の会社に勤務をしているF某という男性(以下「F」という。)と、交際関係にあり、Fは、二男とも親しく、被告の自宅を訪れて二男とゲームをする等して交流を継続している。
イ Fは、同年10月14日に実施された二男と原告の面会交流の受け渡しの場所に同行し、原告に対し、被告と交際をしており、原告と被告が離婚次第、被告と結婚する予定である旨告げた。
ウ 原告は、前記Fの発言を受け、同年10月16日付(同月18日受理)、本件訴訟の弁論を再開する旨の上申をした。
(事実認定の補足説明)
被告は、Fとは単なる友人であって恋愛関係や肉体関係にはなく、面会交流を巡る原告とのトラブルや原告による同居の請求に疲れ、原告と被告との婚姻関係がすでに破たんしていることを示すために虚偽の事実を述べてもらったに過ぎない旨主張し、被告もこれに沿う供述をしている。
しかしながら、被告は、同年10月14日の原告と二男の面会交流の受け渡しの場だけではなく、同年12月22日に実施された熊本家庭裁判所調査官による面談の際にも、交際中の男性がおり、同男性が被告宅に来て、二男とテレビゲームを一緒にしたりして交流を続けており、二男も同男性になついている旨の説明をしており(甲48)、原告に婚姻関係が破たんしていることを示すための虚偽の説明であったとする被告の供述と矛盾している。さらには、被告は、原告との面会交流の調整の一切を担っている久保田弁護士に対しても、原告が被告の不貞を理由として本件訴訟の再開を求めた同年10月18日、原告からのFとの関係について説明を求めるメールに対して、「どうやら、3か月ほど前からだそうですが、以前からのお知り合いで、原告との婚姻関係が解消していないので一線を越えることはしないという前提で、現在は友人関係の延長線上にある」と恋愛関係にあることを否定しない回答をしており、久保田弁護士に対して同回答をした被告の理由も判然とせず、著しく不合理である。よって、被告の供述は信用することができず、被告とFとの関係は、肉体関係にあるか否かは措くとしても、少なくとも恋愛関係にあり、被告が両親と同居している被告の自宅を訪ねて被告の二男と交流する等、結婚を前提とした交際関係にあると認められる。
2 婚姻費用分担義務の性質
原告は、被告が原告の同意を得ず別居をし、その後も、離婚意思を明確にして原告との別居を継続し、実態としての婚姻関係を維持しない等の同居義務に違反している以上、民法752条及び同760条の趣旨からして、原告は二男の養育費相当額を超えた婚姻費用の義務は負わない旨の主張をしている。
しかしながら、婚姻費用分担義務は、婚姻という身分関係から発生する義務であり、婚姻関係から生ずる他の義務と対価関係もしくは牽連関係にはなく、また、円満な婚姻関係や婚姻関係の維持に向けた双方の努力等の事実状態から発生するものでもない。したがって、被告が原告の同意を得ずに別居をし、別居を継続していることを理由として、直ちに原告が婚姻費用分担義務を免れるものではない。もっとも、別居の原因が被告の有責行為にある等、被告が有責配偶者と認められ、被告の扶助請求が権利の濫用であるといえる場合には、原告は婚姻費用分担の義務を負わないから、以下この点について検討する。
3 被告の同居義務違反の有無
(1) 原告は、被告は正当な理由なく本件別居を開始し、原告の再三の申し入れにもかかわらず同居を拒否していることから被告には同居義務違反があり、被告は有責配偶者である旨主張している。
(2) 被告の別居に係る正当理由の有無
被告は、原告と別居を開始したのは、原告からの肉体的暴力や精神的虐待が原因であって、正当な理由がある旨主張をしている。しかしながら、前記第3の1(1)で認定のとおり、前件別居以降、原告が被告に対して何らかの暴力や暴言を浴びせた事実は認定できず、被告の別居が原告からの肉体的暴力や精神的虐待を原因とするとの被告の主張は採用できない。また、本件別居開始時に原告と被告との婚姻関係が破たんしていたことを窺わせる事情は何ら存在せず、本件証拠関係からしても、本件別居開始当時、被告に原告と別居する正当な理由があったとは認められない。
(3) 被告の別居継続に係る正当理由の有無
ア 被告は、前記第2の2前提事実(2)及び第3の1認定事実(2)で認定のとおり、本件別居後すぐに、第1調停事件を申立て、原告との間で本件第1調停を成立させている。そして、本件第1調停の中には、本件別居合意があり、被告は本件別居合意に基づいて原告との別居を継続しているものと認められる。
イ 原告は、本件別居合意は夫婦の同居義務を定める民法752条に違反して無効であり、また、同別居合意の「当分の間」との文言は抽象的であり、具体的に別居期間を定めていないことから無効であって、被告が本件別居合意に基づいて別居を継続しているとしても同居義務違反は免れない旨主張をしている。
ウ この点、確かに夫婦は同居義務を互いに負担しており、同居の義務は夫婦共同生活の本質的内容であるから、これに反する合意は民法752条に反して無効となり得る。もっとも、夫婦関係調整調停において、同居の障害となる事実や離婚の障害となる事実が無くなるまで、当分の間夫婦が別居する旨の別居調停は一般的に行われているものであり、別居調停成立の過程において、夫婦が別居を合意する正当な理由があれば、当該別居調停は有効と解するべきである。
エ 本件においては、前記第3の1認定事実(2)で認定のとおり、被告は長男及び二男を引き取って離婚をしたい旨を強く希望し、原告は、離婚はしないとしてこれを拒否した。そこで、原告としては、調停をあまり長引かせず、とりあえずは調停で別居を決めて調停を終了させ、被告の気持ちが落ち着けば、特段別居する理由もないことに気付くのではないかと考え、現状を追認する形で本件第1調停を成立させた(原告本人)。原告と被告は、本件第1調停において長男及び二男の面会交流について具体的に定めており、原告としては、被告との別居を追認して、子らと面会交流を図ることにより、被告との関係が改善されることを期待して本件別居合意に応じたものと認められる。そして、夫婦関係の改善等を図るための別居調停は正当な理由があり、本件別居合意は有効であるといえる。
オ したがって、被告の別居の継続は、本件別居合意に基づくものであるものといえ、正当な理由があると認められる。
(4) 被告の同居拒否に係る正当理由の有無
ア 前記のとおり、被告の別居の継続は、本件別居合意に基づくもので、正当な理由がある。もっとも、民法752条の趣旨からすると、「当分の間」とは長期の期間であってはならず、また、別居調停が夫婦の合意を正当性の前提としていることからすると、一定の期間が経過しても、事態が改善されない場合において、一方の当事者から同居の請求があり、同居を請求された当事者がこれを拒否した場合、同居の拒否に正当な理由がなければ同居義務違反となる場合もあり得ると解するべきである。
イ 本件において、前記第3の1(4)で認定のとおり、原告は、平成26年12月29日付で久保田弁護士に宛てた書面において、「今後に向けて必要な改善点を率直に話し合い、それについての改善の努力をしていきたいと思っています。」と夫婦関係を改善させたい旨の申し入れを行い、平成27年11月27日付で久保田弁護士に宛てた書面において、「婚姻費用について、妻がこれを主張するなら、まず同居義務を果たしてください。」と明確に被告に対して、同居を請求している。そして、被告は久保田弁護士を通じて、これを拒否しているから、当該同居の拒否に正当な理由があるか検討する。(なお、原告は、本件別居合意以降、同居の要請は何度もしている旨供述しているが、原告自身、夫婦の同居義務については、民法の文献を読む中で知識を取得した旨供述しており、本件証拠上、原告が被告に対して「同居義務違反」と主張しはじめたのは、前記第3の1(4)で認定のとおり、平成26年7月25日に申し立てた監護者変更の際が初めてである。そして、本件証拠上、原告が被告に対して、明確に同居義務を果たすように要請したのは、平成27年11月27日付の書面が初めてであると認められるから、同日以降の同居義務違反について検討する。)
ウ 前記第3の1(3)で認定のとおり、原告と被告は、本件第1調停成立後、平成25年4月20日に、本件別居後初めての子らの面会交流を行ったが、被告の父親が長男に対して「守ってやれんでごめんな。」などと発言したことに対し、原告が当該発言は不愉快で、片親疎外との虐待に該当するとして抗議する等して対立が生じた。その後、同年6月15日に面会交流が実施されて以降、同年7月5日に原告が被告の父親が上記発言を謝罪する動画を送信するまで、被告の父親の面会交流への立ち合いを拒否する旨伝えたことから、被告が翌6日に実施予定であった面会交流の場に現れず、以降、原告と二男の面会交流を、体調不良等を原因として拒否し、代替日も設けず、被告の代理人となったE弁護士も本件第1調停で合意された面会交流に向けた協議を第2調停事件の中で行おうとしたことから、原告が平成25年12月10日、被告及びE弁護士に対し面会交流の拒否を理由として、慰謝料500万円の支払を求める訴訟を提起した。その後も、前記第3の1(3)イで認定のとおり、被告が平成26年3月頃、二男の面会交流減縮調停を申立て、同年7月25日、原告が二男の監護者変更及び子の引渡しを求める家事審判を求めて以降、原告と被告は、それぞれ様々な家事調停や家事審判を熊本家庭裁判所に対し申し立てた。
このように、原告と被告との関係は、本件第1調停以降、子の面会交流を巡る対立を契機として悪化し、その後、原告による民事訴訟の提起や原告被告双方による家事審判及び家事調停の申立てによりその対立は鮮明となり、原告が被告に対して同居を請求した平成27年11月27日時点においては、夫婦関係は極めて高い葛藤状態にあり、夫婦間の信頼関係はほぼ破壊されている状態にあったといえる。そして、原告及び被告がこのような対立関係となったのは、原告が被告の父親の謝罪動画を要求する等、やや行き過ぎた態度をとったことを契機とする被告の面会交流の拒否にあり、被告の態度にも不適切な点は多く認められるが、原告及び被告の一方に専ら帰責されるものではなく、双方に要因があるものと認められる。したがって、同年12月3日付で、被告が久保田弁護士を通じてこれを拒否したことに正当な理由がないとは認められない。
(5) 以上のとおり、被告に本件別居開始時点において、原告と別居をする正当な理由は認められないが、その後、被告が申し立てた第1調停事件の中で、原告と被告は現状を追認することを合意して本件別居合意を含めた本件第1調停を成立させ、被告はこれに基づいて別居を継続していたものと認められるから、被告に同居義務違反があるとは認められない。また、原告が同居を請求した平成27年11月27日時点においては、原告と被告の間では、子の面会交流を巡る紛争を契機として、様々な家事事件及び民事事件が係属しており、原告被告間の夫婦関係は対立が鮮明化し、極めて高い葛藤状態にあり、夫婦間の信頼関係はほぼ破壊されている状態にあると言わざるを得ず、その要因は、原告被告の双方にあると認められるから、同年12月3日付で、被告が久保田弁護士を通じてこれを拒否したことには正当な理由がないとはいえず、被告に同居義務違反があるとは認められない。したがって、被告の同居義務違反を前提として、婚姻費用分担義務不存在を主張する原告の請求には理由はない。
4 被告の交際関係
前記第3の1(3)及び(5)で認定のとおり、被告は遅くとも平成29年7月頃から、Fという男性と婚姻を前提とした恋愛関係にあり、Fは、被告の自宅を訪ねて、被告の家族や二男と交流を継続して行っている。そして、被告は、平成29年8月、熊本家庭裁判所に対して離婚訴訟を提起して原告との離婚を求めた。原告と被告との間では、前記第3の3で認定のとおり、子の面会交流を巡る紛争を契機として対立が鮮明化し、平成27年12月頃には、夫婦間の信頼関係はほぼ破壊されている状態であったといえる。しかしながら、被告がFと交際を開始し、さらには原告に対して離婚訴訟を提起したことにより、信頼関係の破壊は確定的となり、婚姻関係は破たんしたものと認められる。このような被告の行為は、Fと肉体関係にあるか否かに関わりなく、婚姻共同生活体を破壊させ、夫婦間の具体的同居協力義務が喪失したことを自認する行為に他ならず、扶助請求としての婚姻費用を請求することは権利の濫用と言わざるを得ず、信義則に反して許されない。したがって、被告が久保田弁護士のメールによりFとの交際関係を自認している平成29年10月18日の3か月前である同年7月18日以降については、原告は二男の養育費相当額を超える婚姻費用分担義務を負わない。

 

第4 結論
以上から原告の請求には一部理由があることから主文の限度でこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

 

熊本地方裁判所民事第2部

裁判官 鹿田あゆみ